2011/12/12

日垣隆著『電子書籍を日本一売ってみたけれど、やっぱり紙の本が好き。』の内容に対する問題

2011年4月に発売された日垣隆著『電子書籍を日本一売ってみたけれど、やっぱり紙の本が好き。』(講談社)(以下『電子書籍を~』)はその書名を含め多数の問題点を指摘されている。この記事ではこれまでに指摘された問題点のうち一部を取り上げる。

なお、この記事にはamazonへのリンクが含まれるが、amazonのモバイルサイトはコンテンツを一部しか表示しない(レビューのコメントを表示しない)ため、参考資料として不完全なものしか表示できない。PC/MacやiPad等のフルブラウザで読むことをおすすめする。

電子書籍を日本一売った?

書名にもあるように、日垣氏は「電子書籍を日本一売った」と自称しているが、その根拠、つまり第三者による客観的な認定を受けたとは書いていない。また、「日本一売った」のはどういう基準において比較されたのかも明らかでない。基準とは、集計期間・売上・部数・調査対象などである。

この事について日垣氏はツイッターで他のユーザーから質問を受けたが、明確な回答を示すことができず、やりとりが次の記事にまとめられている。

日垣隆氏(@hga02104)の『電子書籍を日本一売ってみたけれど、 やっぱり紙の本が好き』は嘘?
http://togetter.com/li/135897

電子書籍を準備し始めたのは、初めて作ったのは、売ったのはそれぞれいつ?

本書には日垣氏の電子書籍関連の実績が書かれているが、その記述に齟齬・矛盾がある。

『電子書籍を~』では、日垣氏が電子書籍の時代を初めて意識したのは1986年末であり、同年には初めての電子書籍を作っており2001年から販売を開始したことになっている。
しかし、別の著書『こう考えれば、うまくいく。』(文藝春秋)では1987年に電子書籍について準備を始めたことになっている。つまり準備を始めるより前に既に作っていたことになっている。
また、日刊サイゾーのインタビュー記事「"知の暴君"日垣隆氏がサイゾーに降臨 Web3.0時代を語る!」では1997年に電子書籍の販売を開始したことになっている。

なお、実際に日垣氏が無料メールマガジンの配信を開始したのは2001年、有料メールマガジンの配信は2002年から、PDFの販売は2005年からであり、それ以外の実績は見つかっていない。

その他の問題

その他、指摘されている問題のうち一部を挙げておく。中国語版(海外版)メルマガについては今回は触れないが、今後記事にする予定である。

 

参考資料

ここまでの内容に対する参考資料を挙げておく。ただし文中にリンクを埋め込んでいるものを除く。

企業法務マンサバイバル - No.1表示と景品表示法
http://blog.livedoor.jp/businesslaw/archives/51541159.html
※本書のように「日本一」などNo.1表示を行うことに対する法律上の解釈が説明されている。さらに理解を深めたい方は「景品表示法 No.1 表示」で検索していただきたい

Amazonレビュー「読者が何も気づかないとでも考えているのか」
http://www.amazon.co.jp/review/RB8OSSG01ZIDE/
※実績の矛盾・日本一の基準が示されていないこと・電子書籍の定義が不明であること・メールマガジン配信開始時期が事実と違うことが指摘されている

Amazonクチコミ『本当に「日本一」売ったの? 』
http://www.amazon.co.jp/gp/forum/cd/discussion.html?cdForum=Fx2E1RZAXC0XRQ3&cdThread=Tx3KA6JH377OXSJ

日刊サイゾー「″知の暴君″日垣隆氏がサイゾーに降臨 Web3.0時代を語る!」に対する指摘
http://higakimondai.blogspot.com/2011/12/web30.html
※実績についての矛盾を当該記事を中心に記述している

この本の原稿はワニブックスで発売中止になったものではないか?

日垣氏はワニブックスPLUS新書から『デジタル総痴呆化社会の空気を読め!(仮)』という本を出す予定だった。発売予定日は2011年2月8日だった。しかしこの本はどうやら発売中止になったようだ。ただ、この本の内容紹介を見ると、その内容はまさに『電子書籍を~』の内容であった。

残念ながら『デジタル総痴呆化社会の空気を読め!(仮)』の内容紹介はamazonからも、ワニブックス社のサイトからも削除されてしまっている。しかし、その内容を保存しているブログがあった。次の記事である。

【予約開始】日垣隆『デジタル総痴呆化社会の空気を読め!(仮)』→2011年2月8日発売予定
http://blog.livedoor.jp/ton20071208/archives/1561092.htmlWeb魚拓

内容紹介を以下に引用する。

ついに真打ち登場!
電子書籍売り上げ日本NO.1の著者がいよいよ「総デジタル化時代」で勝ち抜いてきたワザと知恵を公開。
電子書籍の<書き手><編み手><売り手>としての立場を明らかにしながら、「実践者」にしかわかり得ない今後の展望を語る。
「結局は可処分時間の奪い合い」「辞書類は電子書籍の圧勝」「再びライブの時代がやってきた」など最前線発の考察は現代人必読。
iPhone、iPad、キンドルなど、新時代のツールとの付き合い方も伝授。

前半は電子書籍「売り上げ」日本一を誇る日垣氏が今後の展望を語る、というまさに『電子書籍を~』の内容である。
後半の「結局は可処分時間の奪い合い」「辞書類は電子書籍の圧勝」「再びライブの時代がやってきた」というフレーズは『電子書籍を~』の目次を見ると、そのまま見出しとして使われている。
また、最後の「iPhone、iPad、キンドルなど、新時代のツールとの付き合い方」については、『電子書籍を~』の第2章「 電子書籍の〈読み方〉と〈デバイス活用法〉 」でそれらしきことが語られている。

さて、『デジタル総痴呆化社会の空気を読め!(仮)』が発売中止になったであろうことは、発売予定が告知されていたのに現時点でその本が出版されていないことから推測できることであるが、加えて日垣氏は発売予定日直前の2月7日からツイッターで株式会社ワニブックスに対する日垣隆先生の発言にある発言を始めている。

なお、『電子書籍を~』の発売日は2011年4月28日である。

疑問点

『デジタル総痴呆化社会の空気を読め!(仮)』と『電子書籍を~』の関係について、以下の疑問が残る。

  • 『デジタル総痴呆化社会の空気を読め!(仮)』が発売中止になったのはなぜか
  • 『電子書籍を~』は『デジタル総痴呆化社会の空気を読め!(仮)』の没原稿を使ったものか
  • 没原稿を使っているのであれば、ワニブックスでは発売中止になった事情を講談社ではどのように判断したのだろうか

念のために述べておくが、ある出版社で没になった原稿を他の出版社から出すことは問題視していない。出版社間での校閲水準にはどの程度の差があるのだろうか、差があるとすれば講談社(あるいは本書を編集した週刊現代編集部)の水準はどの程度なのか、ということに対し疑義を呈している。